夜になって、雨は止んでい
た。

閉店の時間が近づいても、
春子さんは、まったく意に
介していないようだった。

僕は、立ち上がり、
「ごちそうさま。このコー
ヒー、ムダになって、ゴメ
ンね」と言って、飲まれな
かったコーヒーを見た。

春子さんは、
「まだ、居てもらっていい
ですよ。誰かと待ち合わせ
ではないのですか?」と言
ってくれたけど、

僕は、
「ありがとう」と言って、
会計を済まし、『ゆるり』
を出た。

外には、雨に濡れたアスフ
ァルトの匂いがしていた。

僕は、海岸を少し歩くこと
にした。

ただ、それだけなのに、僕
は引かれるように、海に向
かって歩いていた。

足首まで、海面に浸かった
とき、誰かが、僕の名前を
呼んだ。