入社して、同じ部署に配属されて、毎日顔を合わせて、好きになって、六年。

 二階堂はとにかくモテるから。男女問わず人気者だから。わたしなんて眼中になくて。きっと片想いのまま終わって、二階堂と誰かの結婚を祝福して。わたしも二階堂ではない誰かと結婚して、時が過ぎていくのだろうな、と。ずっと思っていたから。

 だからせめてバレンタインデーや誕生日に、好きだと言っていた店のコーヒーを差し入れようって。思っていた、のに……。


 一旦視線を外して俯いて、深く息を吐いてからゆっくり顔を上げる。
 二階堂はやっぱり真っ直ぐわたしの目を見つめていた。


「それで?」

「え?」

「俺はこの六年、鈴村からチョコのひとつももらえなくて、脈無しかなって思ってたんだけど、実はたまに差し入れられるコーヒーがそれだったらしい。俺が好きだって言ったら、耳まで真っ赤にして呼吸も忘れる。これは脈があるって、思ってもいいか?」

「……」


 ここで「はい」と返事をすれば、片想いが終わる。というのに、なんだかこれが現実だとは思えなくて。動揺して。混乱して。

 とりあえず膝の上に乗せたままだった和菓子の箱を持った。透明袋を外してから、ウェットティッシュのケースに手を伸ばす。と。


「ああ、だめだ。今日の鈴村はアホの子だった……」

 果てしなく呆れた声で言われてしまった。


「だ、だってお昼から何も食べてなかったし……」

「だよな、はいはい。じゃあそれ食え。俺からの初めての土産だ。ありがたい気持ちで食いきってしまえ」


 今すぐの返答を諦めたのか、二階堂はオフィスチェアごとくるりと回ってそっぽを向き、立ち上がろうとするから。わたしは慌ててスーツの裾を掴んで引き止めた。

 え、と短い言葉を発して二階堂がこちらを見下ろしたけれど、わたしは恥ずかしくて顔を上げることができない。二階堂もまた、何も言わないまま、ただ裾を掴まれていた。