言うと彼女はふわふわと視線をさ迷わせて、エプロンをソファーの背もたれにそっと置くと、小走りでこちらにやって来て、僕の首に思いっきり抱きついたのだった。
あまりの勢いにバランスを崩しかけたけれど、どうにか持ちこたえて彼女の腰に腕を回す。
「一緒に、暮らすの？」
「うん、そうしたら行き来する時間も省けるし、一緒に朝ごはんも食べられるし」
「わたし、シフト超不規則だよ？」
「いいよ、大丈夫」
「二部屋あるとこじゃないと、小林くんに迷惑かけちゃうかも」
「俺そんなに神経質じゃないから平気だよ。どこでも寝れるし。アラーム鳴るまで起きないし」
「嬉しい。ありがとう」
耳の後ろ側から、感極まったような彼女の声が聞こえた。
ここはまだベッドの上。このまま押し倒したい衝動に駆られたけれど、彼女の帰宅時間と出勤時間を考えると、そういうわけにもいかない。
ああ、早く一緒に暮らさなければ。早く一緒に暮らすべきだ、と実感しながら、彼女の腰をぎゅううと抱きしめた。彼女もよりいっそう僕の首に抱きつき、触れ合っていない部分を埋める。
時間ぎりぎりまで抱き合い、離れるとき。彼女が「まだチョコ渡してないのに、こんなに嬉しいお返しもらえるなんて」と苦笑した。
その言葉の意味を聞く前に、彼女は「また連絡するね！」と慌ただしく行ってしまった。
