「申し訳ありません、アリス様!主人は……加賀井室長は研究熱心な人間で……。今回の研究も人生をかけるほどの意気込みで……」
主人ってことは加賀井室長の奥さん?
記憶力が羨ましいくらい良いアリスさんなら研究員の顔と名前は分かってるだろうけど、俺はまだこの件に関しては部外者と言って良い。
深く頭を下げてきた室長夫人に、アリスさんはため息を吐いた。
「……どれだけ熱心にやっていたかは知ってる。でも、これは私が決めたこと。誰も覆させることは出来ない」
「分かっております。我々は最高責任者の貴女様に従うだけですので」
「貴女は物分かりが良くて助かるよ。じゃあ、私はこれで」
アリスさんは身を翻すと羽取さんを引き連れてその場を去っていく。
加賀井室長の憎しみが込められた目を背中に受けながら……。
「アリスさん!何もあんな言い方しなくても──」
慌ててアリスさんを追いかけた俺はスタスタ歩く彼女の背中に訴える。
でも、急に彼女は足を止め、俺の方を振り返った。
「……じゃあ、和泉はあの研究を続けても良いと思ってるの?」
俺を見つめる目はさっきと同じ冷たい目だった。



