「切碕さん、これだけは覚えてて」







朱寧はもう一度僕の方を振り返った。






「貴方が私を本当に愛してくれてなくても私は愛してた。貴方は優しい人だって私は知ってるからね」






朱寧の顔には涙が伝っていて、悲しみを堪えるように無理矢理笑っていた。






僕が優しい……?






それは違うよ、朱寧。






僕はただ君にアリスちゃんの姿を重ねていただけなんだ。






手に入らないものを手に入ったつもりでいていたんだ。






僕はそんな朱寧に背向けると深くフードを被って、その場から去った。





「この子のこと言えなかったな……」





この子?





もしかして、朱寧は──。





後ろから聞こえた呟きに振り向きそうになるが、そのまま歩き続ける。





その時が朱寧と会った最後だった。






それから朱寧がどうなったかは知らない。







きっと幸せになったに違いない。






そう思っていたかった。





そして、その数ヶ月後に僕は死んだ──。






最期にアリスちゃんと朱寧の姿に重なったのは何でだったんだろう?






まあ、そんなのどうでも良いか……。






──そこで僕の意識は闇へと堕ちた。