ばーか。〜あいつを振るなら、俺がその理由になってやるよ。〜



放課後、わたしは昨日のうちに予約を入れていた、行きつけの美容院に寄った。

中2の夏休み前、カケルの心を呼び戻そうとショートカットにしてもらった所だ。


店内では、1人の先客が男性美容師に髪を切られていた。


「あっ、里香ちゃん」

こちらから声を掛けようとしたところで、鏡の下に置いてある雑誌をまとめていた店長が笑顔を見せた。

50代前半くらいに見える彼女は、自然な茶色のロングヘアと

上品な雰囲気が滲み出る独特な声が特徴な、一見な怖そうな優しい人。

ひょうきんで少し天然な、かわいい性格の持ち主だ。


「こんにちは」と会釈すると、「じゃあ、ここでいっか。座って」と笑顔で返ってきた。


失礼しやす、とその席に着くと、「今日はどんな?」と訊かれた。

「普通に……顎の辺りまで」と答えると、店長は椅子の後ろで「了解」と親指を立てた。

「よろしくお願いしやす」と鏡の中の店長に頭を下げる。