ばーか。〜あいつを振るなら、俺がその理由になってやるよ。〜


小野寺くんが普段使っている電卓が、

小学校時代にわたしが使っていたものとボタンの配置が違い少々戸惑ったものの、何問か手伝ううちに慣れた。


「78」

「オッケ。次――」


小野寺くんが言う式の答えを電卓で出し、彼の暗算が正しいかを確認する。


「34」

「えっ」

ちょっと待って、と言うと、小野寺くんは素早く計算し直した。

なぜこんなにも急いで書いた文字がこんなにも綺麗なのだろうと考えていると、「36じゃね?」と小野寺くんの声が聞こえた。

「本当?」

今度はわたしがちょっと待ってと言い、計算し直した。

イコールを押したあとに画面に浮かんだのは、36という先ほど小野寺くんが言った数字だった。

「ごめん36。合ってる」

「おっ、よかった」

嬉しそうな笑みを浮かべる小野寺くんに、わたしは「暗算が電卓に勝つってすごいよね」と笑った。

「いやいや。電卓はほら、ボタン1個でも間違えると変わってくるじゃん」

それだけ早くて正確なら十分だよと笑ってくれる小野寺くんに、

なんとなく、わたしが出逢ってきた人の中で5本指に入るくらい優しいなと思った。