ばーか。〜あいつを振るなら、俺がその理由になってやるよ。〜



「元彼という遠い存在になった遠山が西高に進むとなると、藤崎はそこを目指すことはできなくなる。

もしも遠山と同じクラスに――さらに、隣の席になどなれば、妙な距離が2人を包むに決まっているからだ。

そこで馬鹿な藤崎は、振られたあとも大好きだった遠山に、彼の家からは少々遠くなるものの、

本来偏差値の高い彼が行くべき東高をすすめるといったことはせず、東高に家が近い自身が東高を目指した。

彼女の偏差値と東高の偏差値にはおよそ20ほどの差があった」


「えっ……」と呟くみいに、「引いたでしょ、今ドン引いたでしょ」と返す。


「いや、そういうんじゃなくて。だったら、自分に合ったレベルの、西高以外のところに行けばよかったんじゃないの?」


「家からは近いほうがよかったんじゃ。

藤崎は家を愛しておる。

早朝に家を出、放課後、学校を出てから当分の間家に帰ることができないなんていう過酷な日々に、彼女が耐えられるとは思えん」


みいは数秒間の沈黙を流し、へへっと下手くそに笑った。


「それらの理由から、藤崎は自身が東高に相応しい人間になろうとした。

中学校生活最後の1年は、勉強をしていた記憶しかないと藤崎は語っている。

しかしその甲斐あってか、藤崎は見事自身の偏差値を20以上上げ、東高等学校に合格した――。

……とまあ、こんな感じよ」


少々強引に完結させると、みいは「ふうん……」と何度か頷いた。


「話が長かった割に得られたものはかなり少ないけど、里香……じゃなくて藤崎が、馬鹿でズボラっぽいけど、

愛する家のためならなんでもする一途な部分もあるってことだけはわかった」

「えっ、それだけ?」

辛口すぎない?というわたしの声は、1人で食事を再開してしまったみいには恐らく届いていない。