「わたしも本当は、カケルの行った西高に進むべきだったんだよ、自身の偏差値的にはね?」
「へえ……」
みいは声と同時に、なんとも言えない表情を浮かべた。
それもそのはずだ。
カケルの進んだ県立西高等学校――通称西高は、世間的にはもちろん、県内でもだいぶ偏差値の低い学校なのだ。
目の前にいる友人が本来は自分もそこへ行くべきだったと言えば、
県内でも世間的にも偏差値の高いほうであるこの県立東高等学校――通称東高に通う人間は引くに違いない。
引くどころか、むしろドン引きだろう。
「だけどさ? 中学校2年生の夏休み前よ。飽きっぽい性格を除いたすべてが完璧な彼氏、カケルに振られたわけ」
はあ、と頷くみいは微かに笑っている。
カケルに恋愛感情を抱かなくなった今は、そんな相槌にも傷つかずに済む。
「するとだよ。中学校3年生、特に受験シーズン。大問題が発生するわけ」
「えっ、なに?」
「テストに出るからね、よく聞くんだよ。
カケルこと遠山 翔という人間は、わたしこと藤崎 里香にとって元彼というあまりに遠い存在になったわけだ」
「うんうん」
「大丈夫? 目立つ色でマーカー引いた?」
みいの返答を待つことなく話を続ける。
「で、藤崎にとって遠山が元彼という遠い存在になったのは、この段階ではさほど大きな問題ではない。
これが嘘だろうと言いたくなるほどに大きな問題に変身するのは、遠山の志望校を藤崎が知った瞬間だ。
そう、遠山の志望校というのが、本来、馬鹿な藤崎が行くべき西高だったのだ」
「ちょっと待って。なんで名字なの?」
「そんな無駄なことを説明している暇などない。我々には時間がないのだ」
続ける、と挟み、わたしは再び話し始めた。



