ばーか。〜あいつを振るなら、俺がその理由になってやるよ。〜



男性教師のがさついた癇に障る声を合図に、日直が号令を掛け、

担当教師も内容も大嫌いな数学の時間が始まった。

わたしの大嫌いな声を発しながら、男性教師は白いチョークで書く汚い文字で綺麗な黒板を汚していく。


そしてそいつは間もなく、そのでかい体で普通の人よりも座高の低いわたしの視界を埋め尽くした上、

せっかく綺麗だった黒板に、僅かにチョークの粉が残る黒板消しを滑らせた。

深緑色の中に浮かぶ白っぽい円に気を取られつつ、

わたしは小汚い文字で並べられる言葉をノートへ写していく。


しばらくして、自分が鼻の下にシャーペンを挟み、

貧乏ゆすりをしながら窓の外を眺めていたことに気が付き、鼻の下からシャーペンを救出すると、なんとなく隣を見た。


美しい横顔で、苛立つわたしを少しだけ癒やしてくれた小野寺くんは、

左手で3色のボールペンを華麗に回しつつ、右手ではノートに綺麗な文字を綴っている。


ペン回し得意なんだ、と思い、試しに利き手でもない左手でやってみると、

濃い青色のボディのボールペンはわたしの左手から逃げ出し、賑やかに床へ着地した。


ボールペンが着地した音に反応した大嫌いな声に「おい」と言われ、

「どうもすみませんでした」とねっとりした口調で返す。

ボールペンを拾うと、わたしはこっそりため息をつき、窓の外を眺めた。