ばーか。〜あいつを振るなら、俺がその理由になってやるよ。〜



昼休み、

黄色い弁当箱が入った、白地にいろいろなおにぎりが小さくたくさん描かれた保冷巾着とともにみいと合流すると、わたしはすぐに質問を投げ掛けた。


「ねえみい、暗号みたいな小難しい数式を眺めて癒やされることなんて、ある?」

「いやあ……」

みいは席に着き、大きくひまわりが描かれた黄色の巾着袋を開きながら大きく首を傾げた。

「だよね」

わたしも席に着き、保冷巾着を開けた。

黄色と白のギンガムチェック柄のランチョンマットで包んだ少し冷えた弁当箱を取り出す。


「えっ、ていうかいるの、数式を眺めて癒やされるなんて変な人?」

みいは少し馬鹿にしたように笑う。

わたしは辺りを見回し、小野寺くんがいないことを確認すると、身を乗り出して口元に手を添えた。


「いたんだよ、そんな変な人が」

小声で告げると、「えっ、誰?」と小声で返ってきた。

「そりゃちょっと言えんのじゃけど、確かにおるんよ、そういう……癖(へき)を持った人が」

「ふうん……。まあ、おにぎりの具を冷凍の焼き餃子にしちゃう人がいるくらいだもん、数式を眺めて癒やされちゃう人もいるよね」

うんうん、と頷き、みいは淡いピンク色の弁当箱の蓋を開けた。

「焼き餃子をおにぎりの具にするのは普通でしょ。ちょっと聞かないかもしれないけど、全然普通だから。日本では焼き餃子おかずにご飯食べるでしょ?」

「まあそうだけどさあ……。美味しいの、冷えた餃子って?」

「美味しいさ。えらい美味いさ。餃子は季節も時間も温度も関係なく美味いさ」

わかったわかったと左右の手のひらをこちらに向けて苦笑するみいに、「よく覚えとき、テストに出る」と植え込んだ。

みいは「里香って時々、時代も地域もどこの人だかわからなくなるよね」とのんきに笑っている。