ばーか。〜あいつを振るなら、俺がその理由になってやるよ。〜



「うおっ」

ふいに隣から驚いたような声が聞こえ、悲鳴に近い声を上げる。

「びっくりしたなあ……」

「それはこっちのセリフだよ」

それより朝っぱらからなにをしているのだと尋ねると、計算、と返ってきた。

計算をしているのは見ればわかる。


「なにを求めてるの?」

「数字」

「……なんの数字?」

わたしの執拗なまでの質問返しに、小野寺くんは黒のシャーペンをノートの真ん中に置き、伸びをした。

そして小さく笑うと、再びこちらを見る。

「数字とか計算式って、見てると癒やされない?」

「……えっ?」


彼の言葉を日本語に限りなく近づけるのに、3秒ほどの時間を要した。

数字を見ていると、癒やされる。

なんとか翻訳はできたが、その意味はまるでわからない。

なんとなく彼が変態であること裏付ける言葉のようにも思えるのだが、どうなのだろうか。


「数字とか計算式。見てると癒やされない?」

「いや、言葉はわかったんだけど、その意味が……ちょっと」

「そっか……」

変かな、と少し恥ずかしそうに笑う小野寺くんに、きっと、と頷く。

「通りで今までわかってくれる人がいなかったわけだ」

「やっぱりいなかったんだ」と笑うと、小野寺くんも「1人も」と笑った。