週明け、昨日自分で切った前髪にもう少し短くしてもよかったかなと思いながら登校すると、昇降口で小野寺くんに会った。
他人の気配を察知してこちらを向いた彼と、ばっちり目も合っている。
時間が止まったかのような数秒間の静止のあと、小野寺くんから目を逸らし、彼は1人教室へ向かった。
なんとなくほっとしたが、あんなに長い間見ていたら誤解されてしまっただろうかと直後に不安になった。
違う違う、そういうんじゃないと心の中で騒いでも、誰にも伝わらない、聞こえない。
「もうほんっと最悪なんだけど」
右肩に掛けている鞄の肩紐を握る右手に力を込めると、「もう」とそこそこ大きな声で言い、同時に右足で強く昇降口のタイルを踏んだ。
タイルを踏みつけたことによる右足の痛みと、誤解されていたらどうしようという不安に耐えていると、後ろからくすりと小さな笑いが聞こえた。
そちらには、「最悪って最も悪いって意味なんだよ?」と言うみいがいた。
「タイミングっ、くるタイミングっ。もお、なぜに今?」
1人で騒ぐわたしに、みいは「教室で話聞いてあげるから」と言い、上履きに履き替えた。
「教室でなんか言えるわけないじゃん」
馬鹿なの、と叫ぶように問うと、みいからは馬鹿だよと返ってきた。
「じゃあわかった。教室に行く間に聞いてあげるよ」
早く上履き履いてとみいに促され、わたしは泣きそうな顔を作り、下唇を浅く噛んで上履きに履き替えた。



