昼休み、昼食を済ませてから、位置を戻した席に着くことはしなかった。

なるべく小野寺くんと一緒にいたくなかったからだ。


机と椅子だけを小野寺くんの隣に残し、わたしは保冷巾着をロッカーに放ると、みいと再会した。


席にまでついていくと、みいは机に伏せた。

みいの1つ前の席が空いていたため、そこにお邪魔した。

クラスメイト以上友達未満といった仲の女子生徒の席だ。

もしもお邪魔している間に席の主が戻ってきても、軽く謝れば済む。


「あー。なんだろうね、食後の……このなんとも言えないのんびり感」

「ああ、ちょっとわかる。ぼーっとしちゃうんでしょ?」

「そうそう」

「そして襲い来る『ぼーっ』に身を任せていると、意識が飛んで、耳に飛び込んでくる囂しいチャイムの音で目が覚める、と」

「ん、カマビスシ……?」

「かまびすしい。やかましいって感じ」

わたしが説明すると、みいはふっと笑い、

「里香ってあまり聞かない言葉結構知ってるよね」と言った。

「囂しいって聞かない?」

「そんな言葉聞いたの、生まれてこの方初めてよ?」

「『生まれてこの方』も十分普段は聞かないと思うんだけど」

「わざとでしょうよ。『生まれてこの方』なんて初めて使ったわ。なんなら、知ったのもつい最近だよ」

「ふうん……。なんかわたし、標準語だと思ってた言葉がそうじゃないってことが多々あるんだけど」

なんでだろ、とみいの目を見ると、「知らない知らない」と、あたしに言うなとでも言うように首を振られた。