翌朝、わたしは着替えを済ませて階段を駆け下り、ヴィヴァルディの四季より春を歌いながらリビングに入った。

弟が「ハイテンション里香、不気味」と言う。

「わたくし藤崎家の長女里香、148センチ、おちび拾って下さいのダンボール箱から逃げ出すことに成功致しやしたっ」

いぇい、いぇいいぇいっ、と1人で場を盛り上げる。

弟は「一生孤独でよかったのに」などと酷なことを言いやがる。

「神様は、まだわたしを見捨ててはいなかったのだ。はあっ。ありがたやあ、ありがたやあ」

「なあ父さん、あいつ大丈夫か? いい病院探してやったほうがよくねえか?」

弟の言う悪口を受け流し、わたしは窓の前に立ち、カーテンを開ける。

「今日は……」

ああ、と吐息のように挟み、「なんて天気のいい朝なんだ」と続けた。


「なあ父さん。俺には雨に見えるんだが、今日って……今って雨降ってるよな?」

「俺が見る世界にも確かに雨が降っている」

俺ら2人がおかしいのか里香1人がおかしいのか――。

俺は里香1人がおかしいのだと思うが――。

藤崎家の男2人による悪口をやはり受け流し、わたしは深呼吸をした。

そしてしばらく快晴にすら見える雨降りの外を眺めると、「母上、本日はわたくしにも食事を」と言った。