ガチャ玄関の扉の鍵が空いた。
外はもう四月を迎えたというのに、又雪が降っている。でも、今年冬の雪もこれが最後になるかと思う。
玄関が開く。扉から出来るだけ音を立てない様に美雪が入って着た。
玄関の鍵を静かに締める。
美雪は上着を脱ぎハンガーに掛け、
ポケットから携帯を出し充電をした。
部屋の中は、まだ昼間だというのに
カーテンが締め切られとても暗く、
ただカーテンの隙間から少し雪明かりが差していた。
美雪は、するりと滑るかの様にベッドの中に潜り込んだ。
ベッドの中はとても暖かい。
美雪は一息、息を吐く。
「ただいま」
「うん、おかえり」
美雪は、暖かい胸の中に飛び込みギュッと抱きしめた。
彼も又、美雪を暖かく抱きしめた。
「体がとても冷たいね」
「うん、雪が降ってるんだよ」
「そうか」
彼は目を瞑り、淡い夢の中で話した。
そして、再度美雪をギュッと抱きしめ深い眠りについた。
家具も何も無い真新しい部屋に、暖かい日射しが射し込む。
窓は東向き、建物の隣には小さな公園が有り、そこには数本古い桜の木が植わっている。

「桜が満開になったね。入学式迄もつといいね」
「無理だと思うよ。天気が崩れるって天気予報で言っていたから…」
「えー、残念だな」
窓を開け、ピンク色に染まる桜を見ながら美雪は笑った。
部屋の中に、一枚花びらが舞い落ちた。綺麗だった。

「早く片付けろよ。
もうすぐ俺家の方も荷物がくるから受け取らないといけないから」
「はーぃ、頑張ってます」
玄関から大きなダンボールを抱え、大きく声を貼りながら部屋に入って来る。
部屋に入って来た男性は、少し痩せ型ではあったが、力も少し有り、荷物を部屋の隅までスタスタと運んでいた。
額には少し汗が滲んでいた。

「後運ぶのは?」
「あっ、う、ぅん大丈夫かな?」
「あー、疲れた」
男性は美雪にそう言い、フローリングの上に座りこんだ。
そして、窓に目を向けた。
窓を見つめた。男性が、
「桜、綺麗だね」
と、呟き少し黙った。

「さあ、次は俺ん家だぞ。手伝えよ」
男性は大きく声を張り、勢いよく立ち上がった。
「はい、はい」
美雪は、窓を閉め黒い大きめのリュックを手に取り携帯の充電を外す。
ポケットに携帯を投げ込み兎の人形が付いた部屋の鍵を持った。
美雪はこの春から親元を離れた。
夢に見ていた大学生活、一人暮らしを始めるのだ。
心配性の父からは、地元の大学に進む事を強く進められていたが、頑固な私の勝ち。
見事、受験を勝ち抜き大学と一人生活を手に入れた。
ただ、見事に保護者(?)が着いた。
まさか、同じ街の大学を受験するとは?ね、智。
智は、私の事をよく知ってる人
保護者。

父が泣きながらよろしく頼むと抱きついてた。
智はいわゆる優等生さん、私と違って。
そして、いつも私の側にいてくれた幼なじみ。
まさか、又又近くで保護してくれるとは…まぁ、嬉しいんだけどね。

「美雪、早くしろよ」
智が階段の下から、美雪を見上げる
階段の上美雪が慌てて部屋に戻る
「わぁー、待ってまって鍵が鍵」
美雪は慌てながら扉を勢い良く閉め鍵を掛けた。
鍵の音が大きく鳴り、兎の首輪の鈴がリンと鳴った。

智のアパートは、
美雪の住む街の一駅隣。
美雪と智は桜が舞い散る中、足早に駅に向かった。

二人の新しい生活が桜と共に始まる。