「ああ、何なの、もう!」

それから、私は休み時間になると、先輩にまとわりついて来る女子にウンザリしていた。仕方なく、その度に教室から逃げ出していたんだけど、お昼休みに、いつものように屋上に来た途端に、思わず由夏に言ってしまった。

「どうしたの?落ち着きなさいよ。」

「だって・・・あの子達、ほんとに鬱陶しい。」

「仕方ないよ、おあいこだもん。」

「おあいこ?」

「そう、昨日は先輩にピッタリくっついてる悠に、向こうがムカついてたんだから。」

「ちょっと由夏、私、別にムカついてなんて・・・。」

「ムカついたんじゃなきゃ、ヤキモチか。」

「なっ。」

由夏の言い草に、私は思わず大声を上げかけるが、由夏は動じない。

「ま、悠も受験生だからなんて、気取ってられなくなったってことだよ。いいんじゃない、それで。」

「ちょっと待って。私は先輩の気持ちも知らないで、キャ-キャ-言ってるあの子達がさ・・・。」

「何、先輩の気持ちって?」

熱くなってる私に、あくまで冷静な由夏。

「先輩は勉強しなくちゃいけないんだよ。」

「えっ?」

「先輩はもう野球が出来ないから。」

「・・・。」

「去年の夏の決勝戦で痛めた右肩を、1年間学校を休んでまで、先輩は懸命に治療したけど、結局治らなかった。野球を諦めなくちゃならなくなった先輩は、でも新しい夢を見つけることが出来たんだよ。その夢を実現する為には、どうしても大学に行かなくちゃならなくて、だから残り半年、懸命に勉強しなくちゃいけないんだよ。その邪魔を私達は絶対しちゃいけないんだ。」

熱弁をふるう私の顔を、由夏はしばし眺めていたけど、やがて聞いた。

「ねぇ。その話、誰から聞いたの?」

「先輩から。」

「いつ?」

「昨日の夜。」

「夜?」

ビックリして聞き返してきた由夏に、私も慌てた。

「実は先輩昨日から私と同じ予備校来ててさ、帰り一緒に帰ったの。」

「・・・。」

「その時、先輩が話してくれたんだよ。新しい夢に向かって進む為に、俺は高校に帰って来たんだって。」

「先輩の夢って、何なの?」

「それは教えてくれなかったけど・・・。とにかく私は先輩を応援する。そう決めたんだ。」

そう力強く言い切った私を、由夏はまた少し眺めていたけど、やがて言った。

「凄いね、悠。」

「えっ?」

「先輩が帰って来て、今日でまだ3日目なのに、どんどん先輩との距離が縮まってるじゃん。」

由夏はじっと私を見つめる。

「だって、それはたまたま・・・。」

「そう、またたまたま。でもここまでたまたまが重ねれば、それはもう必然と同じだよ。」

「由夏・・・。」

私は言葉を失ってしまった・・・。