「せめて白鳥くんが夏休みに入った頃に、帰って来てくれてれば。じゃなきゃ、彼が帰って来た時点で、私が付いてあげられていたら・・・。」


「・・・。」


「それなのに、私も学年末試験の時期に入ってしまって、この一番肝心な時期に、ほとんど白鳥くんの所へ行けない状況なのよ。ごめんなさいね。」


そう言うと、みどりさんは頭を下げるから、私は慌てる。


「そんな、みどりさんのせいじゃありませんし、まして私にみどりさんが頭を下げることなんてありません。」


その私の言葉に、みどりさんは苦い笑いを浮かべた。


「ありがとう、悠ちゃん。それにだいたい、今から、私がこんな弱気じゃ、白鳥くんに失礼だよね。」


「みどりさん・・・。」


「白鳥くんは今、甲子園や全国最大の激戦区と呼ばれる神奈川県予選を勝ち抜いて来た強靭な体力と精神力を、全て勉強に注いで頑張ってる。だから、私が白鳥くんの家庭教師になった頃から比べたら、比べ物にならないくらい、成績が伸びてるのは確か。だから、今の白鳥くんの戦いは決して、不可能な戦いでも、絶望的な戦いでもない。」


「はい。」


「だからあとは、白鳥くんの底力を信じようよ。」


「底力?」


「私はピンチになればなるほど、信じられないような力で、それを切り抜けて見せる白鳥くんの姿を何度も、ベンチから見て来た。」


「はい、私もスタンドで何度も見ました。」


「だよね。それが白鳥徹なんだよ。」


そのみどりさんの言葉に、私は大きくうなづいた。