いつか淡い恋の先をキミと

家までの帰り道、歩きながら話すことはあまりない。


言わば沈黙の状態が数分毎に訪れるような感じ。


だけどそれが苦じゃなかった。


沈黙があって当たり前であるかのように自然で、気を遣わなくても済む、そんな感じだった。


会話があるとすれば、それは私から話しかける時。


「ねぇ榛名くん」


「うん?」


「榛名くんは友達とかと一緒に過ごさないの?」


「うん、過ごさないね。まず俺の場合、友達と呼べる友達がいないからずっと一人」


「ずっと本読んでるの?」


「そうだよ。あんまり人と話すのが好きじゃなくて…苦手だから」


「寂しくならない?」


「今はもうね、大丈夫。昔はちょっと寂しかった時期もあったかもしれないけど」


「すごいね、榛名くんは。私もそうなりたい。一人でも大丈夫だって思えるような人になりたい」


「一ノ瀬さんはそうならなくてもいいんだよ」


どういう思いからそう言えるのか気になって、榛名くんの顔を覗き込んだ。


「どうかした?」


「ううん…でもなんでかな、って」


「何が?」


「どうして私は一人が大丈夫にならなくてもいい、って榛名くんは思うのかなって」


「一ノ瀬さんは色んな人に愛されてるから。無理に一人に慣れようとしなくてもいいんだよ」


「……」


「一ノ瀬さん?」


「みんな、みんなね、くるみは愛されてたって言ってくれるの。それは嬉しいの。前の私が愛されてたってことは嬉しいんだけど……」


「……それは前の自分であって、今の自分じゃないってことが言いたいんだね?」


「そう、なの……」


「今更言えないよね。本当は違うって。あの時はそう言うしかなかったけど、本当はこう言いたかっただなんて」


「……榛名くんもそういう経験あるの?」


「あるよ。物凄く後悔した。もっと違う言い方が出来たんじゃないかって。あの時はそれでいいって思えたんだけど時間が経つにつれて、わざわざ傷つけるような言い方じゃなくてもよかったんじゃないかって…」