いつか淡い恋の先をキミと

そう言った榛名くんの声は真剣だった。


だから、私も分かったとしか言いようがなく、本当に家にまで来てくれるのか心配になったけど、今となっては確かめようもなかった。


「一ノ瀬さん、連絡先教えてくれるかな」


「え…?」


「一ノ瀬さんが俺と喋りたいと思った時だけでいいから、その時は俺に連絡してくれない?」


「……」


「してくれたら、急いで君に会いに行くから」


「本当に?いいの?来てくれるの?」


「さっき約束したでしょ」


「ありがとう」


「お礼なんてこっちが言いたいよ。本当にありがとう。生きててくれてありがとう」


「それは大袈裟だよ…ふふっ、」


顔に似合わず、冗談を言う榛名くんに自然と笑みがこぼれる。


なんでか分からないけど、私はこの人と一緒にいると落ち着く。


それはこの人自身が持っている雰囲気がそうだからかもしれない。


話し方も心地良いほどの早さで、声のトーンも低すぎず、私の耳に優しい音を届けてくれる。


榛名くんのすべてが私を落ち着かせてくれる。


「じゃあそろそろ帰ろうか、送ってくよ」


「本当に?送ってくれるの?」


「うん」


もうちょっと話したいと思っていただけに嬉しかった。


家に帰るまでの30分間、まだ榛名くんと喋っていられる。


そんな小さな事が嬉しいと感じられるこの瞬間が、振り返ってみれば幸せだった。


「鍵、一緒に返しに行こうか」


「うん!」


思い切り返事をしながら、鞄を持って教室を一緒に出た。