いつか淡い恋の先をキミと

……この人はやっぱり冷たい人なんかじゃなくて、心が優しい人なのだと改めて思った。


掛けてくれる言葉が優しさで溢れてる。


みんなは記憶を失くす前の私については何も言わない。


まるでそんなこと知らないみたいに何も言わない。


それなのに榛名くんは話してくれて、それで尚且つ肯定してくれる。


過去も今も両方。


陽平くんみたく潔く過去なんていらないと言ってくれるよりも幾分か救われた気がした。


それに陽平くんには言えなかったことがある。


過去を切り捨てられることは本当は辛かった。


そう言われたことで心が楽になってた部分もあるのにこういうことを思うこと自体間違ってるのも分かってる。


だから私を気遣ってそんなことを言ってくれる陽平くんに辛いなんて言えるはずがなかった。


そして言えるはずがなかっただけに、溜め込むしかなかった。


「だから一ノ瀬さんだけじゃないよ」


「……榛名くん……」


「あのね、一ノ瀬さん。一つだけ覚えてもらいたいことがあるんだ」


「……なに?」


「たとえ君の記憶が戻ったとしても、俺は変わらずに君と接したい。君が許してくれるなら、そうしたい」


「……じゃあ交換条件にしてくれる?」


「うん?」


「私がそれを許す代わりに、放課後こうやって会ってくれる?」


「……それはダメだよ」


「どうして?」


「会うなら俺が君の家に行く」


「え?」


「君は、君のそばにいてくれる人たちと一緒に帰った方がいい」


「でも、」


「絶対そうした方がいいから。俺は君から君の周りの大事な人たちを奪えない」