いつか淡い恋の先をキミと

あぁ、私は優しくなんてないのに。


だからそんなに苦しまなくてもいいのに。


男の人なのに、私より背が高いのに、全然覚えてなんかないのに。


私はこの人を守ってあげたい。


そんな気持ちになった。


掴んでいた裾を離し、榛名くんの前に立つ。


顔を覗き込むと、儚げな表情で何かを堪えるようなそんな顔。


鼻筋が通っていて、形の良い唇。


陽平くんとはまた違った顔立ちの良さが目の前に立って初めて分かった。


「一ノ瀬さん、ごめん。本当にごめん」


「どうしてそんなに謝るの?」


「君は悪くないんだ。君は俺に何も酷いことなんてしてないんだから。俺が一方的に君に酷いことを言っただけだから……」


「そんなの信じない。榛名くんはそんなことしない。私は絶対榛名くんに酷いことなんて言われてないよ」


「……」


「これは信じたいことじゃなくて、信じてることだからね」


榛名くんに言っても分かるわけがないのに、そんなことを必死に榛名くんに誓ってた。


『信じたい』じゃなくて『信じてる』。


少しの言葉の違いがなんだか私に勇気をもたらしてくれた気がした。


流されてばかりだった私が初めて自分の意志で放った言葉だったからかもしれない。


「一ノ瀬さんは記憶を失くしても一ノ瀬さんなんだね」


「……どういうこと?」


「誰に対しても優しくて、分け隔てない性格」


「私、優しくなんてないよ……それはきっと前の私もそうだと思う」


「そんなことないよ」


「ううん、そんなことあるの。私は打算で動くような人間だから……嫌な人なの」


「たとえばどんなこと?」


「みんなは私の為に色々してくれてるのに、私はそれを返せなくて…だけどひとりぼっちになりたくないから、みんなの優しさを利用してる」


「……じゃあ俺も嫌な人だね」


「どうして?」


「君が記憶ないのをいいことにこうしてまた喋ってるんだから。君が優しいことを利用してるんだよ、俺も」