いつか淡い恋の先をキミと

「榛名くん…がよく本を読むから、あの時反応しただけなのかな……」


先生は私が本を読む生徒じゃなかったって言ってたし。


じゃあやっぱり陽平くんが反応した理由と榛名くんが反応した理由はあの『本』がただの『本』だからって理由だけだからに過ぎないんだ、きっと。


私の考え過ぎなのかもしれない。


もっと素直に、もっと純粋に。


そんな風になれたら、私の記憶も元に戻るのだろうか。


教卓の上の鍵を取って、教壇を下りようとしたその時、


「あ……」


あの人――じゃなくて、榛名くんが教室に入ってきた。


私の存在に気付いているはずなのに、無視を貫くその姿勢にこの間のショックが甦る。


図書室へ行っていたのか、本を数冊抱え込んでいるその腕は長くて細い。


鞄に本をしまうその姿も綺麗。


声を掛けるなら今しかなくて、


「ねぇ、榛名くんっていつも何読んでるの?」


そのきっかけは読んでいる本にするしかない。


「……」


だけどそんなきっかけでも君は答えてくれはしない。


鞄に本を仕舞い終えれば、私の声はまるでなかったかのように通り過ぎ去ろうとしていた。


足は教室の扉の方へ向かっている。


ねぇ、なんで。どうして。そんなに私のこと、


「……待って、」


気が付けば、榛名くんの制服のシャツの裾を掴んでいた。


すると、榛名くんの身体が前のめりになって――なんだろう、この既視感。


私、この感覚を知ってる気がする。


分からないけど……でも今は何か言わなきゃなんない。


「……私のこと、嫌いなのにごめんなさい。だけど、私……」