いつか淡い恋の先をキミと

「本……いや、一ノ瀬が本を読んでいるところを先生は見たことがないな」


「…そうですか、」


「本を読んでいると言えばハルナだが――」


「ハルナ?」


「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


先生が明らかに話を変えようとしたのが分かった。


だけどそこをさらに追及する気にもなれず、そのあとは適当に話を流して生徒指導室を後にした。


教室に戻れば、もうそこには誰もいなくて、黒板に「最後の人、鍵閉めお願いします」とだけ書かれてあった。


この学校では週番の生徒が鍵閉めを担当するらしい。


鍵閉め、か。


教卓の上に置いてある鍵を取りに行くと、そこには座席表が貼ってあることに気が付いた。


クラス全員の名前がフルネームで小さな紙の座席表に書かれている。


席替えの度にこんなの作るんだ、と半ば関心しながらも座席表をなんとなく眺めていた。


そんななんとなく眺めていたにも関わらず、目は窓際の一番後ろの席を見ていて。


「榛名…光流…っていうんだ…」


その漢字の羅列を指でなぞっていた。


「榛名…はるな…ハルナ……あ、さっきの先生のハルナって榛名のことだったんだ…」


教室に誰もいないから独り言が止まることを知らない。


「榛名、光流くん…榛名くん…光流くん…?何て呼んでたんだろう」


あ、でも君とは仲良くなかった、って言われたんだっけ……。


「じゃあ榛名くんって呼んでたのかな…」


なんだか光流くんよりも榛名くんの方がしっくり気がしないでもない。