ようやくどうにかしなきゃと思ったのは、尻もちをついてるこの人を見た瞬間。


「ちょっと陽平くん、なにやってるの!」


この人は何もしてないじゃん。


「くるみには関係ねぇんだよ」


「関係ないとかそういう問題じゃないよ! あの、大丈夫…ですか?」


未だ立ち上がろうとしないこの人に手を差し出せば、


「触んじゃねぇぞ」


それを威嚇して遮る陽平くん。


「……そっか、そうだよね。記憶が戻ってるわけなんてないよね。ごめん。関口くんもごめん」


何に対して謝っているのか全く分からなかった。


謝らなきゃいけないようなことをこの人がしたのだろうか。


ううん、それよりも。


私は記憶を失う前この人と何かあったのだろうか。


さっきみたいに切羽詰まったような表情で私に謝りたかったことがあると言ったこの人と私は――。


何も思い出せない。


だけど何も思い出せないだけに、何か確信に近い予感が頭を過ぎったことにこの時の私はまだ気が付けないでいた。