もう何処にもいけないように、そんな思いももしかしたら込めてた気がする。


「陽へ――」


「……」


「――え?」


振り返ったその人をまじまじと見てみれば、それは私の見る限り陽平くんではなく、


「何か用?」


病室で一番始めに見たあの人だった。


私みたいな人が好きじゃないこの人は、ようするに私のことが嫌いなわけであって。


そんな人のTシャツを掴んじゃってる私は、更に嫌われるわけであって。


陽平くんだとこの人のことを思い切り「陽平くん!」と連呼していた私は、更に更に嫌われるわけであって。


「ごめんなさい!」


「……いや、」


「あの、嫌がらせとかじゃなくて…私、」


「間違えたんでしょ」


「……はい、」


「君が嫌がらせをするような人じゃないことは分かってるよ」


「え?」


「ううん、何でもな――その本どうしたの?」


いきなり自分の言葉を遮って、私が持ったまま出てきたこの本について聞いてきたこの人を見て、物凄く不思議な気持ちに陥った。


陽平くんもこの人もどうしてこんなに本に反応するんだろう。


「もしかして記憶戻ったの?」


「えっと、」


「追いかけてきてくれたの?」


「あの、」


「一ノ瀬さん、本当は俺ずっと謝りたかったんだ。あんな酷いこと言ってごめんって。俺と一緒にいることで一ノ瀬さんが――」


「お前ふざけるのもいい加減にしろよ!!」


一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。


っていうか結構前から色々と理解の範疇を超えてた気がする。


私がついていけない会話をずっと一人でされてた、みたいな。


だからかもしれない。


私のことが好きじゃないこの人を突き飛ばす陽平くんを見ても何だか現実味がなかった。