「……え、なに……くるみ、もしかして、あたしのことも…分かんない、の?」


……分からない、よ。


……全然分からない。


自分が誰なのかも分からない。


「ね、くるみ…!なんでなにも言わないの?」


「……」


「ねぇってば!」


泣きながら女の子が自分に縋ってくる。


腕を掴まれて、少し体を揺さぶられ、頭が回らない。


自分が何を考えていいのかさえわからない。


そこからは白衣を着た人がやってきて、私と同じ年代の子たち数人は部屋から出て行った。


そして色んなことを聞かれた。


自分の名前。住所。生年月日。自分がどうしてここにいるのか――等。


その質問のほとんどに答えられなかった気がする。


答えられた内容は、シャープペンシルの芯の出し方や一週間が何日あるのか等の常識的なものばかり。


それから暫くして私のお母さんとお父さんと名乗る二人が私のベッドの両端にそれぞれ来て、私の手を取った。


「……本当に何も覚えてない、の、くるみ…」


「翠、やめるんだ」


「……でも、」


「無理に思い出す必要なんてないんだ」


「……そうね、そうよね…」


おそらく私のことを言っているのであろうことは分かる。


物凄く悲しそうな顔をしてるその女の人を見て、なんだか申し訳ない気持ちに陥る。


「……ごめんなさい、」


思わず口から出たその言葉に、


「……謝る必要なんてないのよ」


優しくそう声をかけてくれた。