聞いてるだけで、陽平の気持ちが手にとるようにわかった。


俺だって、彼女である悠実にそんなことがあったなら、耐えられないだろう。


「でもさ、翼。今…記憶を失った今、くるみは榛名のこと好きなこと忘れてるんだよな」


「……陽平?」


「思い出さなきゃいいって思うのは――」


「それ言ったら怒るぞ」


「――だよな。ごめん、どうかしてた」


「……あぁ」


「今日はもう帰るわ」


「おう。明日はどうする?」


「行かねぇ訳ねぇだろ」


「じゃあまたLINE送るわ」


「わかった、じゃあな」


そう言って、俺たちは別れた。


この時、俺たちは自分のことで精一杯だった。


くるみが俺たちのことを忘れているという事態がショックで、自分たちばかりが被害者のようなツラをしていたよね。


くるみの記憶障害が精神的なものからきているんだと分かっていたはずなのに。


自分の危険を顧みずに榛名光流を助けたくるみの行動をみて、まだ榛名光流を忘れられていないことを物語っていたはずなのに。


ごめんね、くるみ。


くるみの方が不安でいっぱいだったよね。


ちょっと考えればわかることだったのに。


無意識に傷付けてたんだね。


今それに気付けてたなら、あんなにくるみを追い詰めることにはならなかったはず――そんなどうしようもないことをずっと考えてしまう自分がいた。