「そういうことばっかり言ってるから陽ちゃんは彼女が出来ないんだよ」


「うるせー、お前に言われたかねぇよっ」


「はいはい、痴話喧嘩はそこまでね」


手をパチパチと叩きながらあたしと陽ちゃんを制したのは、響子で、「陽ちゃんもくるみばっかり苛めないの。分かった?」更に釘をさしてくれた。


いつもこんな感じだから特別空気が悪くなることもなく、あたしたち六人での楽しい時間は再開され、気が付くと入店してから三時間が経っていた。


そしてそこから各々解散して、あたしは帰り道が一緒の翼と陽ちゃんと帰宅していた。


他愛もない話をしながら帰る途中、「翼は…」と言い出して、やっぱりやめた。


翼は悠実と上手くいって幸せ?


そんなこと今まで聞いたこともないのに、聞いてどうするんだと思い立ってやめた。


幸せだと言われたらそれを羨んでしまいそうで。


どうしてそんなこと聞くの、と言われたら何と言っていいか分からなくて。


「どうかしたの、くるみ?」


「ううん、やっぱりなんでもない。間違えた」


「間違えた、って」


「やっぱバカだろ、お前」


いつもなら反論するはずの陽ちゃんの憎まれ口にも、「うん、そうだね」と返しちゃったりして。


今日ほんのちょっと視線が合ってしまったことで、頭の中が君でいっぱいになっていたという事実にようやく気が付いて思わず困惑した。


そしてその初めての症状にどうしていいのか分からないあたしは、自分の好きな作家さんの新刊のことなんてこの時にはもう忘れてしまっていた。