いつか淡い恋の先をキミと

そこからなかなか言葉を発しない翠さんを誰一人として咎めなかった。


俺たちにそんな資格はもちろんないし、少しでもその気持ちに寄り添えたらと思った。


そして暫くの沈黙の後、翠さんは唐突に、


「解離性健忘、って言うらしいの」


普段聞きなれない言葉を紡いだ。


「解離性健忘…って、」


「俗に言う記憶喪失のことね」


「……記憶喪失……」


「解離性健忘には3つ種類があるらしくてね、数日間のことが思い出せない『限局性』と、ある人物や事柄が思い出せない『選択的』、そして生まれてから現在のことが全て思い出せない『全般性』にわかれてるらしいの」


「じゃあくるみは……」


「『全般性』の解離性健忘って診断されたわ。私のこともお父さんのことも自分のことも誰だか分からないって…」


「そんな…」


「……」


「じゃあくるみの記憶は戻らないんですか?」


「それは…」


と、翠さんが質問に応えようとした時、


「翠」


くるみのお父さんであり、翠さんの旦那さんである俺たち幼馴染がそれはそれはお世話になったおじさんがやってきた。


「あなた…っ、」


「落ち着くんだ、翠。お前が取り乱してどうするんだ」


「……ごめんなさい……」


「翼に陽平、久しぶりだな」