Side Tsubasa


物凄い音とそれから数秒後に女子特有の悲鳴が聞こえてきて、何事かとそちらに目を向けた時には一瞬何が起こっているのか分からなかった。


悠実と一緒に体育館のパイプイスを片付けてそれがもう終わって帰ろうとしていたから余計に何が起こったのかを理解出来なかった。


「一ノ瀬さん…っ!」


あまり聞いたことのない声が体育館に響き渡り、その呼ばれている人物がくるみであるということに気付くのに少し時間を要したのは普段誰一人として俺たちがくるみのことを名字では呼ばないからだろう。


もうすでに人集りが出来ている所に走って行ってみるとそこには、頭から血を流しているくるみの痛々しい姿があった。


「ちょっと、お前何してんの! 早くくるみを運んであげないと――」


「今一ノ瀬さんに触るな!」


「――なんでだよ!」


「頭から血を流しているんだから素人が無理に動かすより保健の先生とか来るの待った方がいいから」


絶対焦っているのに頑なに冷静になろうとしているその姿がもう既に冷静じゃないことを物語っていた。


こいつは、くるみの好きなこいつは、榛名 光流は、くるみをどうして突き離したんだろうか。


今となってはよく分からないその事情に今更俺たちが介入できるはずもなく今まで来た。


ねぇ、くるみ。


好きだからそいつを庇ったのは分かってるよ。


事情は嫌でも周りが噂してるからね。


でもお前の友達の俺たちからしたら、くるみを傷付けたそいつを庇ってまでくるみ自身が怪我するなんて有り得ないんだよ。


くるみは自分が周りにどれだけ愛されてるか気付いてなさ過ぎるんだよ。


学校に救急車が来て病院に連れて行かれたくるみの所に放課後足を運んだ俺たち5人は病室で誰一人言葉を発することなんてなく、ただただ眠っているくるみを囲んでいた。


命に別状はなかったらしい。


看板の端が頭に当たってそこで頭皮を切り、更に覆いかぶさってきた看板の重みで床に倒れそこでも更に頭を打ち、脳震盪を起こした――と悠実が言っていた気がする。