面倒見が良くて人当たりも良い、あたしの幼馴染の翼は、もう一人の幼馴染であるお調子者で意地悪であまり人の言う事を聞かない陽ちゃんとは全然違う。


少しは翼を見習えばいいのに、と思い続けてもう17年である。


もう性格が変えられないことは赤ちゃんの頃からずっと一緒にいるあたしと翼には周知の事実だった。


五限目の授業が始まってまだ五分も経ってないのに、すぐ寝ている陽ちゃんの姿を見て怒りを露わにした教科担当の先生に、寝ている本人以外の五人――あたしと翼と悠実と小野拓哉【おの たくや】と森野響子【もりの きょうこ】――で教室内で視線を交わしながら笑った。


「センセー、関口君は夜な夜なエッチなビデオを観てたんで眠いそうですー」


そして最後の最後に爆弾を落とした拓哉のおかげでクラス中は笑いに包まれた。


そんな中、あたしは斜め後ろの席を振り返りその席に座っている彼の顔を見ようとした。


窓際の一番後ろの席だけど、そこだけはカーテンが束ねてあるせいで陽があたらないその場所に、いつも彼はいた。


授業中にも関わらず、本を読んでいるその姿勢はとても綺麗で、でもその顔は長い前髪に隠れていていつも表情は分からない。


笑っているのかも、怒っているのかも、全然分からない。


だからあたしはクラスでどっと笑いが起こる度にこうして振り返ったりしているのだか、未だ彼の真顔以外の顔を目の当たりにしたことはない。


クラス替えをして同じクラスになって二ヶ月、休み時間もずっとカバーがかかっている本を読む君のことが気になっていた。


同じ、本を読むのが好きな人間として、君がどんな本を読んでいるのか純粋に知りたくて。


周りの人を近寄らせないその雰囲気はただ君が誰とも一緒にいることを選択せず本を読んでいるからなのか、それともそのブックカバーをしている本の世界観に浸っているからなのか、ずっと気になっていた。


そしてその気になり始めたきっかけは、次第に本だけじゃなく君本人にも移って行った。


だからあたしは君の本を読む以外の顔を知りたくて、こうして斜め後ろを振り返っている。