いつか淡い恋の先をキミと

一瞬こいつの口を塞いでやろうかと思った。


だけどそれには及ばなかった。


すぐさまパシッと乾いた音が静かな空き教室に響いた。


響子が拓哉を叩いたのだと思ったし、恐らく響子本人も自分で拓哉を叩こうと思ったのだろう——でも違った。


「陽ちゃんの彼女になったくるみへの執着だなんて、よくそんなことが言えるね——響子のことが好きなくせに」


拓哉を引っ叩いたのは紛れもなく悠美だった。


「…好きだから嫌なんだよ…」


「それは響子を傷付けた理由にはならないよ」


「……俺は傷付けたかったわけじゃない。くるみにあんなこと言ったのも、」


「くるみに何て言ったの?」


そう尋ねた悠美に拓哉は力なく答えた。


「くるみが憎いって…鈍くて素直で自分の気持ちに正直でまっすぐなくるみの裏で、実は傷付いてる奴がいるってことをくるみはちゃんと分かっててって…言った」


「ねぇ、それはあたしのことを言ってるの」


「……」


「ねぇってば!」


「お前以外誰がいるんだよ!」


「誰がそんなこと言えって頼んだのよ! あたしが陽ちゃんのこと好きだなんてバレるようなこと、どうして勝手にくるみに言うのよ!」


「言ってもくるみにはわからねぇよ。記憶を失くす前だって、多分くるみは響子が陽平を好きだなんてこれっぽっちも気付いてない」


「だから言っても大丈夫だって?今のくるみも鈍いだろうから気付かないとでも言うの?」


「じゃあ違うのかよ」


「違うに決まってるでしょ! くるみが記憶を取り戻したら、きっと今日のことだって覚えてる! あんたが余計な言葉で傷付けたことだって、何もかも覚えてる!」