いつか淡い恋の先をキミと

「あ、こんなところにいた」


だんだんと声が近付いてくるのが分かる。


でもそっちを振り向くことも出来ない。


「くるみ」


私にそう声を掛けてきたのは翼くんだった。


その後ろには悠美ちゃんがいて、響子ちゃんと拓哉くんはいなかった。


その事実に少しだけ安心したのは気のせいじゃない。


「みんな怒ってる訳じゃないんだ。ただくるみとなにか一緒にやりたかったってだけだから。16時から会議でしょ?早く行っておいで」


未だ同じ場所に突っ立っていた私を促すように背中を軽く押してくれた翼くんが最後に耳元で他の誰にも聞こえないように「くるみは何にも悪くないから」と言ってくれたことでほんの少しだけ心が軽くなった気がした。


ごめんね。


溢れそうになる涙をこらえながら階段を下り、一旦教室に戻った。


静まり返った教室の中で一人、君はやっぱりそこにいた。


「榛名くん」


「一ノ瀬さん」


「榛名くん、ごめんね」


「どうして?」


「勝手に実行委員のもう一人に選んだりなんかしちゃって」


「俺は全然大丈夫だよ。それよりも一ノ瀬さんは大丈夫?」


「え?」


「泣きそうな顔してる。さっき森野さんや藤堂くんたちが一ノ瀬さんのこと探してたよ」


「うん……さっき会った」


「実行委員に俺を選んだことで一ノ瀬さんが何か言われた?」


「……」


「俺は関口くんと代わってもいいよ」


「……」


「それで一ノ瀬さんが泣きそうな顔しなくて済むなら、いつでも代わるからね」