いつか淡い恋の先をキミと

「あらっ、どうしたの怪我?」


後ろで扉の開く音がして、保健の先生が慌てて私のところに近付いてくる。


「一ノ瀬さんじゃない。泣いてるの?」


「……、」


「何処を怪我したの?泣くほど痛い?」


「……」


「あっ、指が腫れてるわね。骨は折れてないと思うけど、ちょっと触るわね」


——違うんです、先生。痛いのは指じゃなくて心なんです。腫れてるのは指だけど本当に熱を持ってるのは心なんです。


私が記憶を失う原因となった怪我をした時に最初に処置してくれたのが今手当てをしてくれている保健の三浦先生だったらしい。


何度もお見舞いにも来てくれて、記憶のことは心配しなくてもいいと励ましてくれたのを覚えている。


「そりゃあたまに泣きたくなる時だってあるわよね」


最後にテープを止めて、私の涙を手で拭いながら三浦先生はそう言った。


「しばらく休んでいく?」


私を気遣っての言葉に少し胸が軽くなったけど、


「……いえ、大丈夫です」


そこに甘えちゃ何も変わらないと思い、すぐに教室に戻った。


もうすでにホームルームが始まっている時間の為、廊下は静かで私の足音だけがやけに響いていた。


教室に戻るのが怖い。


さっきの拓哉くんの言葉がまだ自分自身に刺さっているのが分かる。


でも私はそれから逃げちゃいけない。