いつか淡い恋の先をキミと

なんとなく悠美ちゃんの沈黙に耐えられなくなって、そう言えば、


「ごめんね、覚えてるよ」


ちょっとだけ辛そうな顔をした悠美ちゃんが私の方を向いた。


「くるみは週番やってたよ。朝の挨拶もしてたし、黒板だって消してた。週番日誌もちゃんと放課後に教室に残って書いてたよ」


「そっか……なら良かった」


「覚えてない?」


「うん…全然覚えてないや。ごめんね」


「くるみが謝る必要なんてないんだよ。それにすぐ謝るのは最近の悪い癖だね」


「ほんとにごめんなさい」


謝らなくていいと言われてるそばから謝ってしまった自分に更に嫌気がさした。


だけど謝る以外にどうやって言葉を返していいか分からないのも事実だった。


覚えていないことが悪いことじゃないと言われても、私自身には覚えていないことが罪悪感となる。


もう今更何をどうすればいいかなんて分かるわけがなかった。


空気が気まずくなるのは記憶を失ってから今までで数え切れたものじゃない。


「家」でもそうだし、学校でもいつもの仲良くしてる人達と喋る時だって、そうじゃない人と喋る時だってそう。


気まずくなる時はなるし、ならない時はならない。


この場を収めてくれるのは、チャイムが鳴るか先生が教室に入ってくるか、


「くるみ」


陽平くんが私のそばに来る時だけ。


「陽平くん、どうしたの?」


「いや、別に。俺がお前と喋りたいだけだ」


「陽ちゃん、言うこと言うんだねー」


最後に悠美ちゃんが揶揄うようにそう言って、「邪魔しちゃ悪いからわたしは席に戻るね」と私達の元を離れた。