「ごめんね、俺が足止めしちゃったからだね」


「ううん、違うよ……あたしこそ榛名くんの足止めしちゃってごめんなさい」


「俺は一ノ瀬さんと話せて楽しかったから足止めだなんて思ってないよ。それより本屋にいるってこと言わなくて良かったの?」


「…よく分からないんだけど、なんとなく陽平くんが私が本を読む事に対してよく思ってないのかなって感じるからみんなには言わない方がいいのかなって…特に深い意味はないんだけど」


「そっか……じゃあそろそろ行こうか」


「あ、でも榛名くんが読む本はいいの?」


「また今度で大丈夫だよ。その時は一ノ瀬さんにちゃんと選んでもらうから、よろしくね」


「うん、じゃあこれだけお会計してくるから、榛名くんは先に帰ってて」


なんとなく一緒に帰るには気が引けて、そう言い逃げしてレジまで後ろを振り返らずに急いだ。


税込みで700円弱のその本にブックカバーを掛けてもらい、店を出た。


「一ノ瀬さん、送るよ」


待ってましたと言わんばかりに店を出た私のところにすぐに駆け寄って来てくれた榛名くんに、


「大丈夫だよ、まだそんなに暗くないから」


そう言ってしまったのは絶対に本屋さんでの会話が尾を引いてるからだと思う。


「ダメだよ、もうこの時期すぐに暗くなっちゃうし、女の子が一人で歩いてたら危ないよ」


何が尾を引いているのかと聞かれれば、明確に示すことは出来ないけど。


「危なくなんてないよ」


確実に私の心に引っかかった何かがある。


「一ノ瀬さんは俺と帰りたくない?」


それに気が付きたくない理由は、


「そんなこと言ってないよ!」


気が付いてしまうと何かが変わると無意識に感じていたからだと、


「じゃあ一緒に帰ろう」


後で思い知ることになる。