「ごめんね、一ノ瀬さん」


それなのに私に謝ってくれる榛名くんに物凄く申し訳なく思った。


「でも言い訳だとしても、俺は自分で自分を抑える理由が欲しかったんだ」


言っている意味がよく分からない私に分かるように榛名くんは続けた。


「好きだと伝える資格がないなんて、自分が告白しないことに対する後付けの理由でしかないんだよ。本当は好きだって伝えたくて仕方がないのにもうその子はいないから、俺には資格がないんだって言い聞かせてるだけなんだ」


「……いないって、遠くに行っちゃったの?」


「その表現が正しいかもしれない。もう一生会えないかもしれないし、ある日突然会えるかもしれない。でもその時が来ても俺に決定権はないんだよ。その子が俺の事を許してくれたとしても俺は俺を許せないから」


「もしかして、その子ってこの前言ってた榛名くんが酷いことを言っちゃったっていう子?」


「覚えててくれたんだね、そうだよその子なんだ」


「そっか……」


そしてその先の言葉を失った私を助けてくれるかのようなタイミングで、聞きなれた電子音が鳴った。


「ごめんね、榛名くん……はい、もしもし」


『くるみ、今何処いるの?』


「あ、えーと…歩道橋のコンビニの近くにいるよ。ごめんなさい、もうすぐ帰るね」


『謝らなくてもいいわよ、家には一旦帰ったみたいだったから心配になっただけなの。お母さんこそごめんなさい。じゃあくるみが帰ってくるの待ってるからね』


「うん、ありがとう、じゃあまたあとでね」


『気をつけて帰ってくるのよ』


「はい、分かりました、気をつけて帰るね」


微妙にぎこちない会話を終えて、終了ボタンを押した時、


「お母さん?」


榛名くんの問いに一回だけ頷いた。