「榛名くんはこの本持ってるの?」


ふと思い付いたことを口に出せば、


「持ってるよ」


返事はすぐに返ってくる。


だけど二度目の問いには、


「そっか。じゃあ榛名くんはこの本好き?」


「……好きだよ」


少しの間があった。


でもその間がなんだか心地よくて、もう一回聞きたくて。


「好き?」


「うん、好き」


自分の我儘に対しての返事は少し胸が高鳴った。


「あのね一ノ瀬さん」


「なあに?」


「俺ね、この本のことが物凄く好きな人を知ってるんだけど、その人ね凄く可愛いの。どれだけその本が好きなのって疑問に思っちゃうくらいで、俺は多分それにやられたんだ」


榛名くんが私にそう話してくれた時、何故か心がざわついた。


ドキッとするような感じではなく、モヤモヤとするようなそんな不快感。


さっきの本が「好き」と言われた時とは比べものにならないくらいの胸の鼓動。


「……そうなんだ、」


榛名くんに対してどう返事をしていいのか分からず、適当に打った相槌は自分でも驚く程、張りのない声だった。


「だから一ノ瀬さんもこの本を読んで好きになってくれたら嬉しい」


「……」


「一ノ瀬さん?」


「…榛名くんはこの本が好きだって言った女の子のことが好きなの?」


「……好きだよ。いや、好きだったよ」


私の目を見ながらその私が知らない誰かを好きだったことを伝えてくる榛名くんに意味もなく泣きそうになった。