そう言って差し出されたのは、「向日葵の太陽」だった。


訳も分からないままその本を受け取っていた。


びっくりし過ぎて言葉が出なかった。


どうして榛名くんが私にこの本を渡すの?


どうして私がこの本を探してることが分かったの?


聞きたいことがあり過ぎて何にも言葉に出来なくなる。


「違ってたかな?」


「……ううん、合ってるよ」


「それなら、良かった」


「……どうしてこの本だと思ったの?」


「自信はなかったんだけど、でも、一ノ瀬さんが探してる本ならそれかなって思ったんだ」


答えになっているようで答えになっていないその返事に何故か笑ってしまった。


「この本ね、私の部屋にも同じものがあったの」


「そっか」


「でも私、これ買いたい」


「え?どうして?」


「……それは、」


「それは?」


「大した理由なんてないんだけど……」


「うん」


自分の思っていることが上手く伝わるかどうか不安だった。


「私の部屋にあったこのタイトルの本は、私のものじゃないから」


「……どういうこと?」


「一ノ瀬くるみのものかもしれないけど、今の私自身が買ったものじゃないでしょ? だって私は覚えてないから」


「あ、そういうことなんだね」


「だからね、私が買うの。変かもしれないけど……」


「変じゃないよ。一ノ瀬さんは自分に正直でまっすぐな人だよ」


「え?」


「ううん、なんでもない。ねぇ一ノ瀬さん、俺も何か本を買おうと思ってたんだけど、一緒に選んでくれないかな?」


「私が選んでいいの?」


「うん、一ノ瀬さんに選んで欲しい」


そう言った榛名くんの微笑んでいる顔は、今まで見た顔の中で一番優しかった。


優しいという表現がここで正しいのかは分からないけれど、それでも私にはその表現しか見つからなかった。