陽平くんが今から私に言おうとしてることが、私にとってはよくない何かであることが感じられるから。


知って傷付くくらいなら、知りたくないと思うのはずるいのかな。


それに陽平くんが私に吐いてることはなんとなく分かってた。


みんなが私に何かを隠そうとしてることだって学校でたまに感じられるし、響子ちゃんが言ったくるみの信じたいことだけを信じればいいという言葉だって絶対に理由があってのこと。


私の周りにはみんなが作為的に何かを隠してる気配がたくさんある。


それに気が付いていないフリをすることでみんなが安心するなら私はそのままでいる。


知ってることでも知らないと言う。


それが悪いことだとは思わない。


「ごめん、くるみ。確かにそうだよな。言って楽になろうとしてたのは俺のただの自己満足だった」


「……」


「でもこれだけは信じて欲しい。俺はもうお前に嘘は吐かない」


「……信じてるよ。私はいつだって陽平くんのこと信じてる」


目を見てそう言えば伝わると思った。


「そろそろ行くか」


だけど、目はすぐに逸らされた。


「……陽平くん?」


そして小さく紡いだその名前に応えてくれる様子もなく、ただ私の手を掴んで映画館の方向へ歩き出す陽平くんの背中はいつもと違っていた。


この時の私がその理由に気付くはずもなかった。