「多分…嘘を吐かない人なんていないよ?私はね「お母さん」を傷付けたくないから、本当は知らないことなのに知ってるって嘘吐いたの」


「……」


「自己満足かもしれないけど、「お母さん」の悲しんでる顔を見なくて済んだ時ね、嘘吐いてよかったって思った」


「……」


「人を傷付けない為の優しい嘘が存在するなら、私は嘘を吐くことが必ずしも悪いとは思わない」


「……やっぱりくるみはいつだって真っ直ぐなんだな」


私から逸らしていた目を再びこちらに向けてきた陽平くんの表情はさっきのとは全然違っていた。


それはもう普段陽平くんが私に向ける優しい眼差しの中の何倍もの温かさが含まれていた。


「悪いことは悪いって言えるお前がずっと好きだった」


いきなり何の話をするのだろうと、陽平くんの目を見据えた。


だけど陽平くんはそれ以上続きを話すつもりはないらしく、一人何かを思い詰めたような表情だった。


暫くの沈黙が私たちの間に流れた。


「くるみ」


「なに?」


「俺は、」


「あ、そろそろ映画が始まっちゃうよ!」


「え、あ、そうだな…」


「映画観た後でゆっくり話そ?それに陽平くんが言いづらいなら言わなくてもいいよ」


「でも俺はお前に嘘吐いてるんだぞ」


「……優しい嘘でしょ?」


「え?」


「陽平くんが私に吐いてるのは優しい嘘でしょ?だって私は今傷付いてないんだから」


「……」


「知って傷付くなら知りたくない」