翌日の放課後も榛名くんはあたしが日記を書き終わるまで、ずっと本を読んでいた。


そしてその本はもう昨日のとは違っていて、


「榛名くん読むの早いんだね?」


日記を書き終わって、そう口火を切ったあたしに、


「そりゃあ一日中読んでるからね。速度の問題じゃないよ」


ごく当たり前であるかのように、


「一ノ瀬さんも一日中本読んだらきっと二冊ぐらいは読めるよ」


そう言った。


「一回やってみよっかな……今日は何読んでるの?」


一日中本を読んだ経験はまだないけど、やってみたいとは思う。


その本の世界観にずっと浸れたら幸せだろうと思う。


誰にも邪魔されない自分だけの世界観。


活字で表現してあるだけの文章に、自分の中の想像力をありったけ使って、主人公やヒロインの顔を思い浮かべる。


そしてヒロインの女の子に感情移入しちゃったりなんかして、現実では体験出来ないことを本を読んでる時だけの世界観に浸って満喫する。


「今日はね、昨日の作家のデビュー作で、」


言いながら有名な本屋さんの紙のブックカバーを外しながらあたしに見せようとしてくれた本の表紙は、見知ったもので、


「あ、あたしもその本持ってるよ!」


あたしの家にもある今まで読んできた本の中で一番好きなもの。


『向日葵の太陽』という不思議なタイトルのミステリーと言えばそんな気もするけど、あたしは恋愛モノのような気がする切ないお話。


向日葵という女の子と太陽という男の子が過去に起こした事件は周りの誰に気付かれることもなく終わった。


だけど向日葵は気付かれていないことを受け入れる事が出来ず、いつも周囲の人間から距離を置いていた。


そしてそんな向日葵は太陽とフィギュアスケートを観に行ったことでその世界にのめり込む。


周りも驚くほどの早さでどんどん上達していく向日葵にはオリンピック出場も夢ではないという話が出ていた。


そんな中、向日葵の過去を詮索する人物が出てくることで、その人物の動向を知る為に太陽が動き出す。


そしてその人物を殺してしまった太陽を庇う為に向日葵が嘘を吐き、その事に激怒した太陽に向日葵が言った言葉は――。


「そうなの?」


「うん! 一番好き! 今まで読んだ本の中でその本だけもう数えきれないくらい読んだよ!」


「そうなんだ、俺もね、二回目」


「だよね! やっぱり読み返しちゃうよね! あたしね、その本のヒロインが言うセリフで、『向日葵はね太陽に向かって咲くの。どれだけ暗いところにいても、微かな太陽の光さえ感じられれば咲くことが出来るの。だから私の、向日葵の太陽はあなたしか考えられないの――向日葵は太陽だけを見つめてるのよ』って言う場面あるでしょ? あそこが一番好きなの!」