いつか淡い恋の先をキミと

陽平がいるところではもちろんくるみの前でも話すことのできなかった話題。


それをみんなで語るチャンスは二人がいない今しかないと思われる。


「悠実もこの前聞いてたでしょ…くるみは陽ちゃんのこと好きだって、」


「だけどあれは好きになりたいって」


「くるみがそんなこと言ってたのか?」


「うん…翼と拓哉は知らないだろうけど、始業式の日あたしたちがトイレに行った時さ、教室でちょっと揉めてたでしょ? あの時くるみ教室のすぐ外にいたんだよね」


「…あれをくるみは聞いてたってこと?」


「わかんない。気付いてからはくるみの耳を塞いだんだけどどこまで聞いててどこから聞いてないのか分かんない」


「それでね、響子が『くるみの信じたいことだけを信じればいい』って言ったの。そしたらくるみは陽ちゃんのことを好きになりたいから好きだって言ったの」


そんな経緯があったとは全然知らなかった。


あの会話を聞かれてたのか。


確かあの時、誰かが陽平に対してくるみの記憶が失くなったのをいいことにとかなんとか言っていた気がする。


配慮が足りなかったことに今更ながらに後悔した。


「でもくるみが陽ちゃんのことを好きかどうかは置いといて、陽ちゃんはくるみのことが好きなんだから、それじゃダメなのかな…」


「響子……」


「だって陽ちゃんあたしたちに言ったもん。くるみを泣かせるようなことは絶対にしないって。嘘を吐く形にはなっちゃうけど、それでも自分はくるみのそばにいたいって」


「……あの時の陽ちゃんはいつになく真剣だったよね」


「榛名くんに酷いこと言われてからのくるみのショックも大きかったけど、くるみに口を利いてもらえない陽ちゃんも同じくらいショックを受けてたもんね」


「くるみは榛名くんのこと…本当に覚えてないのかな」


「あたしは寧ろ覚えてて欲しくないわ。くるみにあんなこと言う人は許せない」


「でもさ私には榛名くんがそんなに悪い人に見えないの」