「そうなんだ」


「うん、あたしね、この作家さんの書く本大好きなの」


「一ノ瀬さんって本読むんだね?」


「……やっぱりあたしが本読んでたら変?」


小学生の時、教室で休み時間に本を読んでいたらまず陽ちゃんにバカにされた。


基本外で遊んで休み時間を過ごすのがあたしたちの毎日だったから、たまに本を読んでたりすると物凄くバカにされた。


その理由が陽ちゃんたちがただ自分と遊びたかっただけなのだと分かった今でも、幼いながらにも受けたショックは大きく、あたしは今でも周りに本を読んでいることを悟られないようにしてしまっている。


だからやっぱり言わない方が良かった――…と後悔しかけたところで。


「全然変じゃないよ。本を読むのに変も何もないよ。本はね、好きな人が読めばいいんだよ」


君はあたしが一番欲しい言葉をくれた。


そんな言葉、今まで一度だって誰にも言われなかったのに。


さっき喋りかけただけの同じクラスというだけのあたしに、君はそんなことを言ってくれる。


榛名くんにとっては、ただの気まぐれな意見なのかもしれないことは分かってる。


でもあたしにとってはそのただの気まぐれさえも嬉しい。


それだけで君に声を掛けて良かったと思わせてくれた。