実家での時間を持て余し、結局2日の夕方自宅に戻った。
ポストには広告も含めてかなりの郵便物が溜まっていて、これが小川さんの足跡なんだと思ったら、また切なくなる。
あと3日は会えないのだ。

冷蔵庫を空っぽにして帰省したから、荷物以外にもビニール袋がふたつあり、何度か車と部屋を往復した。

「あー、面倒臭い……」

買ったものを、冷蔵庫のなんとなく指定席に収納していたら、チャイムが鳴った。

「はーーーい」

キッチンのすぐ隣が玄関なので、インターフォンは使わずにドアを開けた。

「明けましておめでとうございます」

今年最初の小川さんの笑顔がそこにあった。
考えるより先にぎゅーーーーっと抱きつく。

「え! あれ? なんで?」

制服の生地に吸い込まれる声は、疑問ではなく喜び。
うれしい! うれしい!

「ミナツさん、帰ってくるの明日じゃなかった?」

「待ち遠しくて」

「たまたま通ったら車はあるし、電気もついてるから、つい来ちゃった」

何度も来たこの部屋に、小川さんは初めて足を踏み入れる。
ドアが閉まると薄暗くて、小川さんの冷たい手と冷たい唇の感触だけしかわからなかった。

「……今日のお土産は強烈だね」

「ごめん。ついテンション上がっちゃって」

間近に見えるえくぼに、私は背伸びをして口づけた。

「……やっぱり、今日仕事終わったら来てもいい?」

「もちろんいいけど、残業は?」

「年明けた方がむしろ楽になるんだ」

「そうなんだ。あ! お雑煮食べる?」

「食べる」

「お餅は何個?」

「2個。でも2杯は食べたい」

「わかった」

小川さんはリビングから漏れる明かりに腕時計をかざした。
もう帰るつもりだとわかって、しがみついた手に力を込める。

「このまま帰したくない!」

「うん。でもごめん。そろそろ限界」

素早くもう一度唇を合わせ、慌ただしく戻っていく。

「あとで!」

何度も見たはずの配達員さんは、もう彼氏にしか見えなくなった。

数枚の年賀状の中には、小川さんからのものも入っていた。
住所は書いてなくて、ただ『美夏さんへ』とだけある。
自分の手で届けてくれたのだろう。

『明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。
 今年も桜を観に行きましょう。
 花火も、月も。紅葉は夕暮れに。
 それに今年は誕生日も。
 クリスマスは約束できないけど、がんばってみます。
 いい一年にします。

 晴太』