「今はごめん。来年からはなんとか考えるから」

年賀状の締め切りがこの時期であることは知っていたけれど、自分の生活を左右されるとは思っていなかった。

付き合うようになって、小川さんは毎日仕事帰りに会いに来てくれた。
プリンとかお花とか、必ずお土産を持って。
だけど決して部屋には上がらず、玄関先で5分程度会話して帰って行くのだ。

「入っちゃったら、もう帰りたくなくなるから」

「帰らなければいいじゃない」

「毎日帰りたくなくなる」

「毎日帰らなければいいじゃない」

「ミナツさーん、誘惑しないで。かんたんに負けるから」

そう言いながらも、部屋へと引っ張る私の手を、そっとほどく。
ワガママを言ってみたけれど、小川さんの気持ちはよくわかる。
関係性が落ち着いた頃ならともかく、今踏み込んだら離れるのが余計に辛い。
毎日残業で疲れてるはずなのに、欠かさず会いにきてくれてるのだから、それで満足しないといけないのだ。
ほんの10日程度の我慢なのだから。

「やっぱり大変なんだね」

「言うほど大変ではないよ。年賀状の組み立て作業、俺は嫌いじゃないし。不思議な一体感もあって楽しいよ」

私の手の届かないところで充実してる、そのことが本当はさみしい。
だけどそれは大人の分別で言わず、口角を少し上げただけで答えた。
ほんの5分を一日中待つ生活はつらく、お正月休暇に入ってすぐに帰省した。
もらったコーヒーカップを本当は持ち歩きたいけれど壊しそうだから、携帯で写真を撮り、それを飽きることなく眺めて過ごしている。
毎年あっという間に終わって「ああー、もう明日から仕事かー」と言っていたお正月は、どうやって過ごしていたんだろう?