「ミナツさん、俺はね、多分ミナツさんが思ってる以上のことを知ってるんです。誕生日は8月ですよね?」

「8月25日です」

「『お誕生日割引』のハガキが何枚も来てました。だから、通ってる美容院も、歯医者も、ショップも知ってます。ご実家の住所もお母さんの名前も知ってるし、出身校やお友達の名前も何人かはわかります。すみません、見てしまいました」

ゴミと郵便物は個人情報の宝庫。
例え封筒を開けなくても、DMやハガキ、封筒の差出人でかなりのことがわかるのだ。

「怖いでしょう? もしミナツさんが俺を好きじゃなかった場合、ものすごく怖いと思います」

全然怖くなかった。
だけどそれは相手が小川さんだからだ。
もし知らない誰かが、あの小川さんじゃない配達員さんがそれを全部知っていたら、やっぱり怖い。

「見てはいけないのに、ミナツさんの郵便物は目に入ります。夜に通りかかって電気がついていたとき、カーテンの向こうで揺れる影をしばらく見ていたこともあります。振られたら、俺はこうしてストーカーになるんだなーって」

「振りません。絶対」

「本当に残業なのか、俺に会いたくないのか、わからなかったから」

お互い同じ気持ちなのに、バカみたいだなって思う。
だけどささいなすれ違いでダメになってしまう関係だってある。
踏み出すのが怖いのは、好きだから。