小川さんはふっと私の部屋を見上げた。

「会いたくないわけないじゃないですか。毎日毎日、この窓を見上げて『会いたいなー』って思ってるのに。ミナツさんはいないって知ってても」

小川さんは初めて見せる切なそうな表情で私に近づく。
そして、べちゃべちゃと泣く私の頭にそっと手を乗せた。

「いろいろ悩んで考えても、ミナツさんに会うとどうでもよくなるんです。『ミナツさんに会えたから、まあいいか』って。俺はそれで三日くらいは機嫌良くいられます」

「昨日も?」

「さすがに落ち込みました。もう会ってもらえないかと思って。だけどミナツさんはこうして来てくれたから、まあいいかって」

「なにそれ! 私は全然足りなくてものすごーく寂しかったのに! 小川さんは平気そうだからいつも虚しくて悲しくて、もう映画なんて行かないって……なんで笑ってるんですか? 私はとっても怒ってるんです!」

強く抱き締められた。
顔にあたる制服の生地がものすごく冷たくて、内臓が沸騰するほどの怒りがするするとほどけて行く。

「……嘘ついて待たせてごめんなさい」

「ミナツさんの気持ちを見誤っていたので、あのくらいの制裁は甘んじて受けます」

「自分で行かなかったのに、どうしても会いたくて」

「うん。俺も」

「本当は毎日会いたいの」

「うん。俺も」

「『俺も』ばっかりでズルい!」

「好きです」

「うん。私も」

悔しいから『好き』とは言ってあげなかったのに、小川さんは満たされたような顔で笑っていた。