12月22日15:34。
ゴロンとカーペットの上に寝転んだまま携帯で時刻を確認する。
約束の時間を34分過ぎたけれど、小川さんから連絡はない。
小川さんが遅れているのではない。
私が、待ち合わせ場所に行っていないのだ。

直前まで、私は買ったばかりのワンピースを着こんで、お化粧も念入りにして、髪なんて先週から念入りにトリートメントして、さっき美容院にまで行って準備していた。
姿見に映る私は、わかりやすいほどに気合いが入っていて、それはそのまま恋心だと他人にだってわかると思う。
だけど、そんな自分の姿を見ていたら、ものすごく虚しくなったのだ。

今回はお酒も飲もうということで、駅近くの映画館に行くことにして、待ち合わせも駅前のカフェにした。
小川さんは何でもいいというので、人気の小説を映画化した邦画を選び、15:40上映に合わせて15時に。
そこでも午前中から会おうとは言ってもらえず、あくまで映画を観に行くことが目的のようなやり取りだった。

歩きやすさより見た目優先でピンヒールのブーツに片足を入れたとき、ずっとずっと引っ掛かっていた棘が無視できないほどに痛み出した。
こんなに楽しみにしても、小川さんの方は違うんじゃないかな?
小川さんはいつも『わかりました』としか言わない。
早く会いたいとか、もっと一緒にいたいという気持ちが感じられない。

小川さんはきっと私を好きだと思う。
だけどそれはごくごく軽いものなんじゃないだろうか。
今知っている女の子の中では一番好き程度の。
私が想っているように、寝ても覚めても身体の中心に小川さんがいるような、指先から恋心がこぼれているような、そんな想いは持っていないに違いない。

虚しい。悲しい。
背中がつりそうになりながらファスナーを上げたワンピースも、歩きにくいピンヒールも、悩んで悩んで選んだクリスマスプレゼントも、全部痛々しい。

ブーツを蹴り上げるように脱ぎ捨てたら、ドアにガツンとぶつかった。
セットしてもらった髪が崩れるのも構わず、カーペットに寝転がる。
頭の上にはベランダに続く窓があり、見た目だけはのんびりとした晴れ空が広がっていた。
私はそのまま、動きの少ない雲をじっと見続けていた。